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ラピスラズリ 217 それだけの気持ち

私の住むマンションの前まで
タクシーで来た田島さんから
白い息が上がる。


全然、昨日だけの出来事にできてない。

タクシーが去って、私と田島さんはふたり向き合う。


「…泣くなよ」

「すみません…」


会いに来てくれただけで
こんなに簡単に涙が出るほど
情緒不安定になってる。


「泣かせてるのは俺か…」

と田島さんは言った。



涙が止んだ頃、
どちらからともなく手を取り歩き出した。

二人の白い息が黒い空に上がって、
田島さんのコートのポケットに
私の手は収められる。

彼を家に上げる覚悟をしていたから、
彼が私のマンションから離れたことに少し驚いた。



「私の家…来ないんですね」


私をどこかへ導くように歩く田島さんの背中に尋ねたら
「行かないよ。この前、言ってたじゃん」と言う。


この前…。

何?

私が首を傾げていたら
田島さんは「言った本人が忘れんのか?」
と呆れていた。


「私何て言いましたっけ…」

「俺は言わない。自分で思い出してよ」



記憶を手繰っていると、
ぎゅーっと手を強く握られた。


「いっっ!」

「簡単に忘れてんじゃねーよ」

「今の、本気で痛かったです…」


手繰った記憶が、よみがえる。
私が発した言葉が、心に浮かぶ。



『奥さんのいる人を家には上げられません』



…全部、思い出した。

それでも、手はつないだまま。
歩みは止めないし、寒い中ずっと歩いてる。

この年末の夜、今日の行き先はなくて
二人で彷徨うように、静まった住宅街を歩く。


ただ一緒にいたい。
それだけの気持ち。

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