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ラピスラズリ 191 今夜だけ

二杯めを飲み終える時、
田島さんが腕時計を見た。

帰る?

先に言われたくなくて、
「そろそろ出ましょうか」と言った。


「そうだな」


「奥さん……待ってませんか」


「ハハ」


肯定も否定もせず、田島さんはただ笑った。



帰りたくない。
帰ってほしくない。
もっと一緒にいたい。

口にできずに、
小さく溜息をつく。


店を出て、エレベーターを降りる時
珍しく彼のコートの襟が折れていた。

そっと手を伸ばして直したら、
びっくりしたみたいで、
ぱっと手を掴まれた。


「びっくりした。叩かれるのかと思った」

「叩きませんよ」


田島さんの手は、温かくて。

少しだけ、手を繋ぐようにしてくれたけど、
ビルを出た時には離れた。



「別れたら口説け」って言えるほど、
私の立場は強くない。


奥さんのことだって、頭にある。


田島さんがもし別れたとしても、
私と田島さんの未来があるわけじゃない。


「田島さん」


少し前を歩く彼が、また振り返り、
俯いている私の前に立つ。


「私…酔ってるので、
明日には忘れてます。

だから、帰らないで……」


ずっと我慢してきた気持ちなのに
こんな台詞で出てしまった。


一晩限りでいい。

未来の約束なんてなくてもいいから
今夜だけ、一緒にいてほしい。

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