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ひみつのシンデレラ【10】ふたりで歩く帰り道

通用口まで歩いた。

さっきよりは人は減っていたが、地下ロッカーから上がってくる人はまだまだいて、人の波に交わって進む。
少し前を歩いていた桜木さんは、振り返って私に何か言うと、先に外に出てしまった。

ああ…
お疲れ様ですって言いそびれた…

人の波に合わせて通用口を出ると、早く駅の建物に入りたくなる蒸し暑さ。


早足で歩いていると「おーい。先行かないでよ」と桜木さんが隣に駆け寄ってきて驚いた。

「桜木さん、先に帰ったのかなと思って」

「帰らないよ。待ってるねって言ったのに」

桜木さんはツボに入ったようで、笑いながら私の隣を歩く。

振り返った時、「待ってる」って言ってたのか。

ちょっと見上げるぐらいの位置に顔がある。
たびたび目を合わせながら、たわいのない話を続ける。

目を伏せたいぐらい恥ずかしかったけど、屈託のない桜木さんの様子に、いつもより少しだけ自分らしく振る舞えた。

私が持っていたパンプスの手提げが、桜木さんの足に当たる。

「あ、ごめんなさい」

「ううん。平気」

桜木さんに当たらないように、反対側に持ち替えた。

肩が当たるほど近い距離に、桜木さんがいる。

私がこんなにドキドキしていても、桜木さんはいつも通りのことなんだろう。
女性が多い職場だし、女性と接するのは日常茶飯事だし。

私なんて相手にもされないだろう。
そう思わないと、後で苦しくなる気がした。

駅の建物に入ると「そっちの電車なんだ」と、桜木さんが言う。

私が乗る電車はここから長いエスカレーターを上がる。
桜木さんが乗る電車は反対側の階段を下りて行くので、ここで解散になる。

「はい。あの、ありがとうございました、大事に履きます」

もう一度パンプスのお礼を述べると、桜木さんは「あ、そうだ」とシャツの胸ポケットから携帯を取りだした。

「連絡先教えて」

あまりにもさらりと聞かれ、言葉を失う。

でも、そういうのが慣れてない私と違って、このくらい桜木さんとっては珍しくないことなのかも…と思い直し、急いでバッグの中の携帯を探した。


動揺してるせいかすぐに出てこなくて、桜木さんが苦笑していた。

連絡先を交換している時は、また距離が近づく。

私の携帯を覗き込む桜木さんの顔や、携帯を持つ骨ばった手を、ドキドキしながら盗み見した。


無事に交換し終えると、桜木さんは胸ポケットに携帯を戻した。

「じゃ、またね。気を付けて」

「はい、桜木さんも」

桜木さんはそのまま階段を下りて行く。

私はその場からずっと桜木さんの背中を見ていたが、桜木さんが振り向くことはなかった。

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