Clarice Fantasy

大人の女性向け恋愛小説置き場。たまにR-18
           

Top Page > ラピスラズリ(連載中) > ラピスラズリ 286 足元に線を

ラピスラズリ 286 足元に線を

「田島さん、よかったらこれ、
もらってください」

さっき買ったチョコの大袋。

「みんなのじゃないの?」

「部のみなさんはもう
ほとんどいらっしゃらないし…
田島さんにも感謝してるので、どうぞ」

「…………」

田島さんは黙ってしまって、
受け取るのを躊躇っているようにも見えた。


「多いですよね。ごめんなさい。
おうちで……奥様と食べていただいたら…」


もう、田島さんに寄りかからないように
自分で、足元に線を引く。

私たちには、何もなかったのだ。
田島さんには帰る場所があるんだから。

唇をきゅっと結び、
コンビニ袋を受け取る田島さんの手を見つめる。


「一人で食うよ。ありがとう」

「いえ……」


ただ、お礼を伝えたかったはずなのに、
困らせちゃったかもしれない。

事務所の階に着いた。


「山下さん、
今日誰かと待ち合わせしてないの?
バレンタインなのに」

「誰とですか?」

「……誰って、知らねえけど、
本命の彼氏だよ」

「……そんなのいませんよ。
田島さんこそ、
早く帰ったほうがいいんじゃないですか?」

「……本気でそう思ってる?」


田島さんの、刺すような言葉に
どきりとした。

まだ、燻り続けている
心の奥を暴かれた気がして。


「余計な御世話。
勝手なお気遣いは結構だけど、
しばらく自宅に戻ることはないよ」

突き放すように言われて、口を噤んだ。


黙った私を見て、田島さんが少し慌てる。

「……じゃなくて、……ごめん。
何でうまく言えないんだろ」

「………」

「ごめん。嫌な言い方して」

「………」

「泣かないで。ごめん……」


私こそ、可愛くないことしか言えないのに、
泣くなんて卑怯なことなのに、
田島さんを困らせてばかりで。

そのすべての気持ちが口にできない。


顔を隠してふるふると首を振る。

誰もいない廊下で、田島さんは
私を抱き締めた。

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ

関連記事
該当の記事は見つかりませんでした。