Clarice Fantasy

大人の女性向け恋愛小説置き場。たまにR-18
           

ラピスラズリ 283 安心

楠さんから溜息が聞こえてくる。運用が変わったのだから、岡田さんでも、断るはずだ。ただ、私みたいな言い方はしなかっただろう。岡田さんなら、何て言うだろう。田島さんに言われた言葉が過る。“いつも自分は被害者って顔してる”“はっきりしない”今も私は、そんな顔してるのだろうか。「あの、楠さん」半分無意識に呼びかけた。ノートパソコンを抱え、立ち上がって楠さんの席まで行く。じっと楠さんの目を見ると、楠さんは目を丸...

ラピスラズリ 282 機転

「あー……いいや。とりあえず、資料頼む」「はい……」田島さんは、踵を返して席に戻って行く。答える隙がなかった。地元の友達なんだけど…。さっき、匠君とお蕎麦屋さんにいたのを見たのかな。なんで聞いてきたんだろう…。パソコンに向かいながら田島さんが一瞬見せた気まずそうな顔を思い出して、指が止まる。…もう。気にしたくないのに。ちらりと田島さんの席を確かめると梶さんと何か話している。そうだ。私も仕事しなきゃ。頼ま...

ラピスラズリ 281 同郷

お蕎麦屋さんに入る。最初こそ緊張したけれど、同郷ならではの話や、栞ちゃんの赤ちゃんが生まれた話、話題はたくさんあった。「栞ちゃん、ママになったんだね。お祝いしなきゃ」「先週実家帰ったけど、大変そうだったよ」「そうなんだ…」でも、栞ちゃんがママ…。やはり感慨深いものがある。その後も話は弾んで、あっという間にランチの時間が終わった。仕事の話は全くなくて、それが意外にも心地よくて。お互い、彼氏も彼女もいな...

ラピスラズリ 280 同級生

2月に入った。岡田さんはもういない。空きデスクが目に入るたび切ない感情が湧くけれど、早く一人立ちしなければと張りつめながら働いていた。ランチの時間になり、匠君からLINEがあった。『駅前のコンビニで待ってるよ』駅の裏側のコンビニ。冬は、田島さんと見たクリスマスツリーがある、あの場所だ。了解のスタンプを送り、バッグを肩に掛けて事務所を出る。ちょうど、エレベーターで萩原さんが上がってきた。「おお。外に飯行...

ラピスラズリ 279 めずらしい人

「……またな。気をつけて」「はい」俯いたままの私を残して、田島さんは背を向ける。小さくなっていく背中を見送って、私も改札に入った。はあ……。こんなことでまだ動揺して、名残惜しくなってるなんて。つくづく私は、学習しない奴だ。最寄駅からマンションまでとぼとぼと歩く。その時スマホが震えたような気がして、バッグの中を確かめた。「LINE……?」見てみると、送信元は山内匠。栞ちゃんじゃなくて、その兄とは珍しい。『山下...

ラピスラズリ 278 赤い顔

駅までという約束で、二人で歩く。人ひとり分挟んで。「さっきはちょっと泣けたな」田島さんが話しだした。「ずっと一緒にいた奴がいなくなるのは寂しいな」「田島さんも寂しいんですか?」「まあ……岡田は、入社時から知ってたし。ぐっとくるものはあったよ」「田島さんは、転職考えないんですか?」「俺?」少し驚きながら私を見る。「考えなかったこともないけど。そんなに器用な方じゃないから、置かれた場所で頑張るよ」「……そ...

ラピスラズリ 277 優しくしないで

「…今日はご自宅ですか」少し思いきって尋ねる。別に尋ねたって変じゃないはずだ。もう、終わっているのだし。田島さんは、ううんと首を振る。「泣いてるから、送ろうと思っただけだよ」だから…。優しくしないで。もう、終わりたいのに。「山下さん、岡田と仲良かったし、堪えてるだろうなって思ったんだけど」田島さんの言うとおり、堪えてる。岡田さんは、ただの職場のつながりだけじゃなくなってたから。こんなに信頼できる人は...

ラピスラズリ 276 終わった関係

「ちょ、ちょっと私トイレに」「いやあ、俺も泣きたいよ!寂しいよね!うんうん」わしっと肩を掴まれて揺らされる。酔っ払いー!すると、田島さんが後ろから、「触ったらアウトですよ」と、楠さんの手を払った。楠さんは「怖いこと言うなよぉ」と言っていたけれど、私は後ろを振り向けなかった。温かい雰囲気で送別会は終わり、店を出て岡田さんと握手する。「がんばってね。また温泉行こう。若旦那のとこに」「絶対行きます」「飲...

ラピスラズリ 275 別れの涙

1月末。懸念の社長面接も無事終えて、中途採用枠での内定がもらえたのは、岡田さんの送別会の日だった。来年度採用のため、むやみに口外できない状態だけれど。岡田さん、梶さん、田島さんは知っていて、それぞれ、おめでとうと声を掛けてくれた。「岡田ちゃん、なんでやめるんだよぉ」お酒が入りすぎた、先輩の楠さんが、岡田さんを熱く引き留める。いつもならあしらってるけれど、この日はさすがに岡田さんも涙目で、そんな岡田...

ラピスラズリ 274 過去形

台車から荷物を下ろして、全て車に積んだ。「行ってらっしゃい」声を掛けると、田島さんは軽く頷いて運転席のドアを開ける。「あ、そうだ。岡田の引き継ぎ頑張って。今日からだろ」思わぬ応援にびっくりした。私が旅行してる間、梶さんと飲みに行っていたみたいだし、知っているのか…「はい。頑張ります」「それが終わるまで、あんまり邪魔しないようにするからさ。自分のことは自分でやるよ。車の予約は悪かったけど」…だから依頼...
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