Clarice Fantasy

大人の女性向け恋愛小説置き場。たまにR-18
           

ラピスラズリ 313 最終話

クリスマスイブ。しんしんと降る雪を、大きなツリーの横で見上げた。結局、仕事を片づけて、ここに立ち寄ってしまった。今年もホワイトクリスマス……。だけど田島さんは、ここに来るのだろうか。予定では、今日の午後、日本に戻ってきているはずだけど。あの、黒いコートを着て、キャリーをひきながら。在りし日の姿を思い浮かべて、佐伯さんの後輩のお店できれいにしてもらったネイルを見る。そして、手の甲の跡の消えない傷はいつ...

ラピスラズリ 312 傷

私は、振り返らずにドアを開けた。すごい風圧に、後ろへ一歩下がる。最初から、本当に遠慮していたなら、こんなことにはなっていないだろう。結局すべて、自分を優先した結果だ。その結果に報いながら、過ごして行くだけだ。仕事上でも、もう田島さんと連絡を取ることはなかった。違う部署に行ってしまった彼と、関わりはなくなっていたし、社員になって、仕事量も責任もケタ違いに変わり、特に梶さんは厳しく教えてくれた。自分で...

ラピスラズリ 311 月日は過ぎる

田島さんはその後、シンガポールと日本を行き来し、社内で会うことはほとんどなくなった。3月の終わりに行われた送別会は欠席し、私はスマホを新しくした。新しい連絡先は、田島さんには伝えていない。季節は移ろい、少し肌寒くなった頃田島さんと佑香さんの離婚が成立したと聞いた。教えてくれたのは、佑香さんでも田島さんでもない人だった。「おー。派遣ちゃんーじゃなくて社員ちゃん」「だから、山下ですって」「なんか気ぃキ...

ラピスラズリ 310 それぞれの道

その翌週。全社に通知が出た。大勢の社員の進退が載っているその通知の中で私が採用されたことと田島さんが海外事業部へ異動となること、そしてシンガポールへ長期出張となることも記されていた。がんばらなきゃ。一人で生きていくんだ。仕事をしなきゃ。一人前にならなきゃ。「大変な怪我だったね」梶さんが心配そうに声を掛けてくれたが、何日か休んでしまった分、取り返さなきゃと思っていた。怪我の理由は誰も知らない。「心配...

ラピスラズリ 309 自分本位

慰謝料は、全て払うことで決着した。佑香さんは、私に怪我をさせたことで受け取る意思をなくしてはいたけどこの罪悪感をどうにかしたかったという自分の都合もあった。つくづく、私は自分本位な人間だ。佑香さんは、手術当日と入院中、後日の外来に来てくれた。「バカじゃないのアンタ」と、佑香さんに何度も言われた。「アンタとしゃべってると自分がバカみたいに思えてくる」とも。乱暴な言葉だけれど、それでも毎日来てくれる彼...

ラピスラズリ 308 破片

その後も、佑香さんの悲しみは部屋中に響き渡り、私は謝ることしかできなかった。ひれ伏して謝り続ける。すでに手の感覚はなく、ひび割れたテーブルが血に染まる。こんな謝罪で、いいのかもわからない。新しいグラスが間近で割れる。それでも頭を上げることはできなかった。「ちょっと……血!」流石に、佑香さんも流れ出る血を見ると我に返ったのか、私に駆け寄ってきた。それでも頭を上げられず伏したままに赤くなった手元を見た。...

ラピスラズリ 307 砕け散る

暴力的なシーンを含みます。苦手な方は読まれないようにお願いします。--------「もう……私は会う事はありません。仕事で顔を合わせることも…」「なぜ?そう言い切れるの」佑香さんは涼やかな瞳を上げ、冷たげな表情で私を見た。「海外事業部に異動になりますし…」「隼人が?」「はい。シンガポールに……4月以降…」失言したと思った。佑香さんは、さっきと打って変わって苛立たしげにカップを置く。転勤のことなんて、浮気相手から...

ラピスラズリ 306 写真

田島さんのマンションとは違う。ダイニングに下げられたおしゃれなライトや、キッチンに並ぶ調理機器。どこもかしこも、奥さんの趣味が入っている。今座っているこのテーブルも…奥さんの趣味なのかな。この二人は夫婦で、それは当然のことで。私は、なんてことをしてしまったんだろう。浅くなる呼吸を整えようと、口元に手を当てる。「見て」奥さんが、テーブルに一枚の紙を差し出す。私と田島さんが、マンションに入って行く写真...

ラピスラズリ 305 くもり空

翌日、田島さんは終日外出だった。顔を合わせないで済んでよかった。できれば、転勤まで会わないまま過ごしたい。彼を好きだった気持ちが薄らぐまで。定時を過ぎ、仕事を終えて、いつものように退勤した。雨が降っているので、傘を差そうとくもり空に向ける。ちょうどその時、女性に声を掛けられた。「山下瑠璃さんですか」エントランスの脇にきれいな女性が立っていた。スタイルが良くて、体のラインの出た服を着て、私をまっすぐ...

ラピスラズリ 304 最後の夜

「好きだよ、瑠璃。俺はずっと、好きでいるから…」震えるような声がして、ぽたりと頬に涙が落ちてきた。はっとして見上げたら、田島さんが、泣いていた。私は、手を伸ばして田島さんの睫毛に触れた。私だって、ずっと好きでいる。私だって……「う……ううっ……うぅ……」途端に、堰を切ったように涙が溢れて、静かに涙を流す田島さんも、唇を噛みしめる。「瑠璃。次のクリスマスイブの夜、気持ちが変わってなければ駅前のツリーの前で待...
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